沢正眼鏡(鯖江市)
「地域」で「眼鏡」をつくる 「眼鏡」で「地域」をつくる
沢正眼鏡は鯖江市で約70年続くプラスチック眼鏡フレームメーカー。
200以上ある眼鏡の製造工程のうち、組み立ての約20工程を担当しています。従業員数は9名で、平均年齢は60歳。
「国内眼鏡フレーム生産の9割以上を占め、労働人口の6人に1人が眼鏡産業に従事している鯖江市にとって、眼鏡産業はなくてはならない存在です。
しかしながら、職人の高齢化や後継者不足によって、鯖江の眼鏡の技術が途絶えてしまいます」と、澤田専務は危機感を募らせます。
また、眼鏡産業の事業者数は減少傾向にあるものの、出荷額は増加傾向にあり、1事業者あたりの負担が増えていることを指摘。
そこで沢正眼鏡チームは、
「『地域』で『眼鏡』をつくる。『眼鏡』で『地域』をつくる。」というビジョンを掲げ、
①社内の雇用の受け入れ体制を整える
②地域の住宅支援
の2つに取り組むことにしました。
眼鏡会社が雇用と住まいを用意することで、産地に新たな担い手を呼び込み、産業を長く続けられる仕組みをつくることを目指します。
具体的な取り組みとして、以下の4つを提案。
a.労働環境の改善「コツコツ100」
…従業員の困りごとや会社の課題を拾い上げ、1つずつ改善していく仕組み。
b.作業の見える化「今日コレ日誌」
…社長と専務だけが管理していた作業工程を可視化し、タスク管理や生産能力の把握につなげます。
c.マニュアルづくり「コレです見本」
…各工程のゴールを見える化し、新人さんに作業を教えるためのコミュニケーションツールに。
d.地域の住まいづくり
…地域に移住したい人の受け皿となり、眼鏡産業で働くためのきっかけとなる住宅を整備します。
これらの提案を従業員にも共有するために、専務の入社以来初となる社内ミーティングを実施。従業員の皆さんと意見を交わし、協力していただけることに。
「産地の新たな担い手づくりには、自由な働き方を受け入れることが大切です。
若い人たちの複業的な働き方を受け入れたり、年配の従業員が長く働けるための勤務体系をつくったり。
そうすることで、技術の継承期間を延ばすことができるはず」と澤田専務。
小さな取り組みを積み重ねることで、気持ちよく暮らし、働ける環境をつくり、その循環が地域全体に広がっていくことを目指します。
これが「新しい技術継承のあり方のデザイン」なのだといいます。
澤田専務は今回のプロジェクトで、こう宣言しています。
「沢正眼鏡 家を買う。」「佐野くん その家の 管理人になる。」
「重要なのは、競争<共創。共に豊かな産地をつくっていきましょう!」と澤田専務。
今後の眼鏡産業の変化が楽しみです。
曽明漆器店(鯖江市)
問屋の可能性と新たな価値づくり
曽明漆器店は、創業101年、四代目が後を継ぐ越前漆器の製造卸業社。
伝統的な漆器と新しい視点での物作りに挑戦している企業です。
今回のプロジェクトでは、まずは会社の現状や困りごとを把握するためにリサーチを行います。
曽明漆器店のとみよさん、はるなさんに参加者がヒアリングをするところからスタート。
人気商品のブルーの新作を作りたいけれど、日々の業務に追われてなかなか難しいこと、
以前デザイナーさんとのコミュニケーションに困ったことなど根掘り葉掘り聞いていきます。
ヒアリング後には実際に店舗と倉庫へ現地リサーチに向かい、さらに理解を深めていきます。
そこで目にしたのは倉庫に眠る大量の漆器。
完成品だけでなく、半製品や漆が塗られる前の木地までさまざまな在庫品があり、曽明さん曰く、
その数はなんと22,000個!金額にして約4,500万円のデッドストック品があることを知ります。
リサーチで得た情報をもとに解決すべき課題をまとめ、プロジェクトの方向性を決めていきます。
初めにチームが取り組んだのは会社のビジョンの設定。
チームメンバーとの話し合いを重ね、漆器問屋としての役割や曽明漆器の思いを「つくり、つたえ、つなぐ」というビジョンの中に込めました。
そしてプロジェクトの核となる課題解決としては業務圧迫の原因となっていた大量の在庫問題に取り組むことに。産地の他の漆器店も同様の悩みを抱えていることもあり、
処分や安売りされがちなデッドストック品をどうにか売ることができないかと曽明さん含めチーム全員で考えていきます。
ところが実際に売るとなると、商品数も形状もバラバラ。
どこかに売り込みに行こうにも、なかなか難しいという現実を突きつけられます。
「私たちにとって、在庫の山は宝の山なんです。」とみよさんの言葉を胸にチームメンバーは漆器の持つ魅力や価値を改めて付け直すことでデッドストックを本来の価格で販売できないかと知恵を絞ります。
そしてたどり着いたのが「一期一会マーケット」。
漆器との一期一会の出会いをテーマにリアル開催のマーケットの実施により、産地の雰囲気や漆器の質感を実際に手に取って感じてもらうだけでなく、
デッドストックが持つストーリーや特徴を伝えることで、漆器に親しみを持ってもらい、お客さまと地域を繋げる場を目指しました。
半年のプロジェクト期間中に2回のマーケットを開催。
12月に本社スペースで開催した「お正月編」ではチームメンバーを””漆器素人”” と呼び、メンバーそれぞれが素人目線で見た漆器の良さを伝えるべく、ポップやディスプレイを自作。
漆器に詳しくないからこそ、お客さまと同じ目線で良さを伝えることができ、計8時間の来場者は19名、売上は約13万円と想定以上の成果となりました。
また、お客さまアンケートでは「丁寧な接客があったからまた来たいと思えた」「展示が個性的で面白かった」「木地があるのが面白い!」という声も。
2月開催の2回目のマーケットでは、在庫の山で溢れていた倉庫を掃除し念願の「倉庫編」を実施!
・お客さんが呼んで理解できる「漆器プロフィール」の作成
・人気だった木地の本格販売
・他社のデッドストック販売
などのコンテンツを工夫し、開催時間6時間の来場者数は1回目を大きく上回る約260名、売上は29万円という結果となりました。会場は地域内外の人で溢れ、目指していた漆器を通してお客さまと地域を繋げる場を実現させることができました。
スクールも大詰め、年明けからは最終発表に向けて準備を進めます。
曽明漆器チームはスクール開始時からコミュニケーション量の多さが他チームに比べ目立っていましたが、スクール終盤に近づくにつれさらに増加。発表2週間前にもなると、毎日仕事終わりにオンラインミーティングをしながらプレゼンの準備を進めていきました。
最終発表時には半年間の活動と成果、そして次回マーケットの発表をし、プロジェクト終了後も引き続き「一期一会マーケット」を行っていく予定です。
5月に行われた第3回のマーケットではチームメンバーがいなくなっても継続できるように、マニュアルや年間計画を作成し、曽明漆器のみでの開催にも成功。今後は産地のカフェとのコラボや「漆器コンシェルジュ」サービスの実施を検討しているのだそう。問屋の可能性と新しい価値づくりに向けて、曽明漆器店の挑戦はこれからも続きます。
小柳箪笥店(越前市)
産地の伝え手になる
経営の視点から新しい産地のあり方を考えたい
テーマは「産地の伝え手になる」。小柳箪笥店は創業100年以上の越前箪笥工房で、4代目で伝統工芸士の小柳範和さんと5代目の小柳勇貴さん親子でプロジェクトに参加しています。
越前箪笥は、指物・金具・漆塗りの技術を使った伝統工芸品。堅牢な作りで100年以上使えることから、近年では嫁入り道具としても愛されてきました。
しかし、ライフスタイルの変化により箪笥の需要は縮小傾向に。また、産地の職人の高齢化も課題になっています。
「越前箪笥の職人は60歳以上の一人親方が多く、30年後には越前箪笥の技術が途絶えてしまう」と4代目の範和さんは危機感を抱きます。
そんな厳しい状況のなか、後継ぎという選択をした5代目の勇貴さん。技法の継承だけでなく、経営の視点から新しい産地のあり方を考えたいと思い、今回のプロジェクトに参加したのだそう。
チーム内でヒアリングやディスカッションを通して見えてきた課題は、以下の2つ。
・4代目の範和さんの制作時間不足
・箪笥や産地の魅力と価値がうまく伝わっていない
これらの課題に対し、小柳箪笥店が受け継いできた「あつらえる」の精神を大切にプロジェクトを進めます。
新しいあつらえの形として、3つの取り組みを提案します。
①人材育成…5代目が広報や営業をサポートすることで、4代目が制作や人材育成に使える時間を増やし、若手職人の育成・独立を促す。「産地と未来の職人をつなげる」
②商品開発…5代目が小柳箪笥店と新規顧客やアーティストをつないで商品開発を行うことで、越前箪笥の認知度を上げる。「お客さまにものをつなげる」
③周知ツールの作成…「百年箪笥研究所」という冊子を制作し、越前箪笥や小柳箪笥店を知ってもらうきっかけをつくる。「職人の思いをお客さまにつなげる」
5代目の「あつらえる」の形は「繋ぎ手としてつくる」ことだといいます。
今回のプロジェクトで、5代目の勇貴さんはこう決意表明しています。
「私は、箪笥の伝道師になります」
「子どもの頃、祖父と父が朝から晩まで働き続けている様子を見て、幼いながらこの状況を改善しなければならないと思いました。私は手先が不器用で職人には不向きかもしれません。そこで、経営という切り口から小柳箪笥店と産地を支えたいです」と勇貴さん。
産地の伝え手として、新たな一歩を踏み出した小柳箪笥店チーム。今後の動きにも注目が集まります。
越前セラミカ(越前市)
KAWARA SCAPE PROJECT
瓦のある風景を守りたい
「越前瓦の風景を守る」というミッションを掲げる越前セラミカ。
越前瓦は越前の土を使った、耐久性や断熱性に優れた製品です。
しかし、新築住宅では金属屋根への移行が進みつつあり、瓦市場は縮小傾向にあります。
瓦のある風景を守りたいという石山社長の熱い想いに共感したチームメンバーたちは、新たなプロジェクトを始めました。題して「KAWARA SCAPE PROJECT」。
「KAWARA SCAPE PROJECT」とは、瓦のある風景を守るための中長期プロジェクト。これまでのリサーチの結果を踏まえ、「つたえる」「つくる」の2軸で取り組みました。
①つたえる=越前瓦を知ってもらう
・ホームページの改修…越前セラミカの施工事例をわかりやすく掲載し、取り組みを見える化。また、環境に配慮した商品のページを追加しました。
・会社の説明動画の制作…迫力ある工場の様子や、働いている人たちの雰囲気が伝わる動画を制作。営業活動や採用活動でも役立つ動画です。
・インスタライブで商品紹介…チームメンバーの山形さんが、瓦を使った商品をインスタライブで紹介。実際にフォロワーから欲しいという問い合わせもあったそう。
②つくる=瓦を使ったアイテムを手にとってもらう
・瓦を使ったインテリアプロダクトの開発
瓦の性能を活かした、屋内外で使えるプロダクト。家の形をしたアイテムで、ペンスタンド、トレー立て、リモコンスタンド、ペーパーウェイトとしてなど、暮らしのあらゆる場面で活躍。また、建材にもなり、積み上げることで外壁や室内の間仕切りとして使うことができます。
・瓦を使ったテラゾーベンチの開発
テラゾー(大理石を骨材にセメントや樹脂で固める)技術を応用して、修繕工事で回収した瓦チップを混ぜ込んだベンチを製作。自治体と協力して公園などに設置することで、瓦ベンチがまちの風景をつくります。
インテリアアイテムの模型をお披露目
これらの取り組みは、どれもチームメンバーの強みを活かしたもの。
ホームページの改修や動画制作はプログラマーの塚田さんが手がけ、ベンチとインテリアアイテムの設計は建築士の牛島さんが担当しました。
また、インテリアデザイナーの山形さんがインスタグラムでの発信を行い、デザインディレクターの山田さんがチームをまとめ上げます。
「つたえる」「つくる」という取り組みを通して、瓦を身近に感じる機会を生み出すことで、瓦のよさを実感してくれる人が増えると実感した越前セラミカチーム。
今回のプロジェクトで、石山社長はこう宣言しています。
「福井県では、瓦屋根は当たり前の風景です。
瓦の風景を守るということは、地域の文化や自然を守るということ。美しくてかけがえのない越前の風景や暮らしがこれからも続くように、瓦を愛していただけるための挑戦をこれからも続けます」
今後の動きにもご注目ください。